いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「できない」君、さようなら(読了時間:約5分)

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ここはアメリカの小さな町の学校。私はあるベテランの先生の授業を見学に来ていた。

 

私の隣に座っている生徒のノートをのぞき込むと、「できないこと」と題して、いろいろなことが書かれていた。「セカンドベースを越える長いキックができない」「三けた以上の割り算ができない」

 

その十歳の女の子はノートを、そんな調子で半分埋めていたが、まだまだ書き終える気配はなかった。他の子どもたちも同じように懸命に書きつづっている。

 

「腕たて伏せが10回しかできない」「ホームランを打てない」「クッキーを食べだすと一つでやめられない」

 

何のためにこんなリストを作っているのだろう? その理由を聞こうと先生の方に歩いていくと、彼女もせっせとリストを書いているではないか。そこでとりあえず、おとなしく状況を観察することにした。

 

先生のリストは次のように始まっていた。

 

「ジョンの母親を説得して父母会に出席させたいけど、まだ実現していない」「車のガソリンを入れるように言っても、娘はその通りにしてくれない」「腕力に訴えずに言葉で解決するようにいくら教えても、アランはまだわかってくれない」

 

なぜこんな否定的なことばかり書かせるんだろう? 私にはまだ見当がつかなかった。

 

10分もたつと、子どもたちのノートは「できないこと」で一杯になっていた。中には二ページ目に取りかかっている生徒もいる。

 

「さあ、まだ最初のページを書いている人は終わらせてしまいなさい。一ページ目がいっぱいになった人は、そこでやめるように」先生の声が作業の終わりを告げた。

 

生徒たちは、リストの紙を先生のデスクの上の箱に入れた。先生も自分のリストを一番上にのせてふたをすると、箱を脇に抱え、生徒を従えて教室を出ていった。

 

いったいどこに行こうとしているのだろう? ともかく、私も後をついていくことにした。

 

先生と生徒は、スコップを持って校庭の隅までやってきた。

 

ところが、どうしたことだろう? 今度は皆で穴を掘り始めたのだ。そして、リストの入った箱をその穴の中に入れて土をかけた。

 

何と「できないこと」のリストを埋めるお墓を掘っていたのだ!

 

先生の声が響いた。「皆さん、お墓を囲み手をつないでください。はい、それでは頭を下げましょう」。

 

先生は本当のお葬式のように言った。

 

「今日はここに『できない』君のお葬式をするために、皆さまにお集まり頂きました。皆さまよくご存じの通り、『できない』君の活躍ぶりには目をみはるものがありました。また皆さまの中には、『できない』君ととても仲良くされていた方もいらっしゃるようです」

 

「しかし『できない』君が安らかに永遠の眠りにつかれることを、皆さまと共に心よりお祈りいたしましょう アーメン」

 

儀式はまだ終わっていなかった。教室に戻ると、今度は「できない」君をしのぶ会を始めた。

 

彼の思い出にひたり、皆でクッキーとポップコーンを食べ、ジュースを飲んだ。この儀式は過去への決別であると同時に、新しい門出へのお祝いでもあった。

 

先生は大きな白い紙をお墓のように切り抜くと、「『できない』君、安らかに眠れ」と大きく書き、埋葬の日付を書き込んだ。

 

そして「できない」君の死をいつも忘れないように、その学年が終わるまで生徒たちからよく見える場所に貼っておいた。

 

時折、生徒の中に「できない」君の名をうっかり口にする子どもがいた。そんな時先生は、すぐに壁の墓石を指さした。すると、生徒は「できない」君の名を使わずに別の言い方を考えるようになった。

 

あの生徒たちと同様、私も「できない」君の死を生涯忘れることはないだろう。

 

チック・ムーアマン

『こころのチキンスープ』ダイヤモンド社

(子供用に一部改変)