いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「救いの天使」(読了時間:約8分)

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私は、与えられた障害ゆえに神に感謝します。これらの障害を通して、私は自分を、仕事を、そして神を見いだしたのですから。

ヘレン・ケラー

 

机の上に積まれた郵便物を仕分けしていると、ひときわ美しいタイプ文字の封筒が目についた。その手紙の何かに惹きつけられて、その封を開けた。

 

上質の便箋に、美しいタイプ文字が、バランスよくきっちりと並んでいる。私は、その文字を目で追った。

 

親愛なるカーチス牧師様

私は、日曜礼拝に出席し、牧師様のお説教にたいそう感銘を受けました。牧師様のお説教は、本にして出版なさるべきです。そうすれば、もっと多くの方々が力づけられ、励まされることでしょう。

 

そこで、ひとつ提案がございます。もし、毎週日曜日のお説教をテープに録音してくだされば、私がそれをタイプし、出来上がった原稿を添えてお返ししたいと思うのです。

 

どうぞ、こうした形で奉仕させていただくことをお許しください。私は、牧師様から賜りました素晴らしい教えを、多くの方々に広めるお手伝いをしたいのです。

 

秘書の方からお電話をいただければ、毎週月曜日の朝、誰かがテープを取りに伺います。牧師様とそのお仕事の上に、神の祝福がありますように。かしこ

メアリ・ルイーズ・ゾラーズ

 

最後は、同じ美しいタイプ文字の署名で終わっていた。手書きの部分はどこにもなかった。手紙を読み終わると、大きな喜びに満たされた。何か月ものあいだ、私は説教の内容を文字に移してくれる人を探し続けていたからだ。

 

しかし、録音したテープから、直接原稿を起こしてくれる人は見つからないでいた。当時はまだ、テープを止めたり再生したりする装置がなかったので、テープレコーダーを手で操作しながらタイプするのは、あまりにもわずらわしい仕事だった。

 

そんなおり思いがけずに、ゾラーズさんからの手紙が来たのである。私は、さっそく手紙にあった番号に電話して、本人を呼び出した。

 

「喜んでご伝言しましょう」と、感じのいい女性の声が答えた。「ご本人と直接お話しできないでしょうか?」と私は尋ねた。「ただいま電話口に出られませんので、どうぞご伝言を」とその声が言った。

 

「ありがとう。どうか私が、素晴らしいお申し出をぜひお受けしたいと言っているとお伝えください」と私は言った。「それは喜ぶことでしょう」と電話の声。

 

「テープを誰かが取りに伺うとしたら、いつがよろしいでしょうか?」「直接ご本人にお渡しできると嬉しいんですが」と私はねばった。私は、何としても、私の救いの天使に実際に会ってみたかった。

 

「その必要はありません。どうぞ明日の正午に、テープを先生のオフィスに用意しておいてください。必ず誰かが取りにまいりますから」

 

「ありがとうございます」と私は答えた。「おっしゃるとおり、テープを明日オフィスに用意しておきましょう」

 

私はこの不思議な取り決めに当惑しながらも、喜んで言われたとおりにした。二日後に、最初のテープとそれをタイプした原稿が私のオフィスに届けられた。

 

原稿は、あの美しいタイプ文字で打たれ、どのページも完璧な仕上がりだった。原稿を読み進むうち、私はすっかり有頂天になった。これこそが、まさに私が本を書くための原案となるべきものだった。

 

私はゾラーズさんにお礼を言いたくて、急いで電話した。電話に出てきたのは、またあの感じのいい声だった。

 

「もしもし、ドナルド・カーチスですが、ゾラーズさんはいらっしゃいますか?きれいにタイプしていただいたお礼が言いたくて」と私は言った。

 

「まあ、こんにちは、カーチス先生」とその声は答えた。「ゾラーズさんには私から伝えておきます。先生からお電話があったこと、喜ぶことでしょう」

 

こうしたやりとりが、ほぼ一年近く続いた。毎週、私のもとには完璧にタイプ仕上げされた原稿が届き、私は最初の本を執筆するための草案をためていった。しかし、私は依然として、私の救いの天使と会うことも話すこともかなわずにいた。

 

ただ、彼女は電話には出てくれなくても、私のお礼の手紙には、あの独特の美しいタイプ文字で温かい文面の返事をくれるのだった。

 

そんなある日の午後、私のところにあの感じのいい声の主から電話があった。「カーチス先生、ゾラーズさんの代理でお電話しているのですが、先生を今日の午後五時にお茶にお呼びしたいそうです。いらっしゃれますか?」

 

私は二つ返事をして、五時きっかりに、教えられた住所に行った。私を迎えてくれたのは、落ち着いた、感じのいい女性だった。あの電話の声の主だということはすぐにわかった。

 

「こんにちは、カーチス先生、よくいらっしゃいました。ゾラーズさんは、居間でお待ちです」私は暖かく、気持ちのいい部屋に通された。

 

そこには、車椅子に座った若い女性がいた。頭を片方にかしげ、苦しそうに顔をゆがめ、体をぴくぴくとけいれんさせている。だがその手は、両膝のあいだでしっかりと握られていた。

 

その顔がパッと明るくなり、彼女は懸命にほほえみ、何かを言おうとした。それは、見るのも痛ましい光景ではあったが、ゾラーズの体からは喜びの光が立ちのぼっているのだった。

 

車椅子の前の台には、大きなテープレコーダーと、旧式の手動タイプライターが並んでいる。挨拶が終わると、彼女は足の指でテープレコーダーのスイッチを押し、しばらく音を流してから、足の指で文章をタイプし始めた。

 

ゾラーズは生まれつきけいれん性麻痺を患っていた。だが、もち前の不屈の精神とユーモアのセンスに加え、足を訓練することによって、その障害を見事に克服したのである。

 

私が電話を通して知り合いになったあの感じのいい女性が、彼女を支えていた。この二人は、分かちがたきパートナーとしてともに働き、実り多く、意義深い人生を送っていた。

 

ゾラーズは、数年間にわたって、私のテープをタイプし続けてくれた。彼女は、一度もそれに対する報酬を受け取ろうとしなかった。この仕事をする喜びこそが、何よりの報酬なのだと言って。

 

そして、数千ページにのぼる原稿の中には、たったひとつのミスもなかった。この素晴らしい女性は、以来私の大切な友人となった。

 

ゾラーズは、私がこれまでに出会ったなかでも、もっとも美しい心のもち主である。今も全面的に奉仕活動に人生を捧げ、堂々と人前で足を使ってどんなこともやってのける。

 

そして、内からわき出てくるユーモアのセンスが、そんな彼女をますます輝かせているのだ。私の人生は、この救いの天使によって豊かにされ祝福されたのだった。

(子供用に一部改変) 

 

ドナルド・カーチス

『こころのチキンスープ8』ダイヤモンド社

rawpixelによるPixabayからの画像