「S子先生ありがとう」(読了時間:約1分)
S子先生は小学四年生の担任です。
学期が始まってまもなくの放課後、教室の見回りにきたS子先生を見つけたT君が、外から入ってきて、「先生、話があります」と言います。
「なあに?」とS子先生が言うと、急にT君が泣きだしたのです。
「驚いて「どうしたの?」と聞くと、「ぼく、万引きしたんです」と言います。
話を聞くと、一昨日、近所の商店からおもちゃのピストルの弾を一箱盗んだというのです。
うまく盗んだものの良心がとがめてピストルを撃つ気にもならず、思い余ってS子先生に告白したのです。
S子先生は、「T君くん、三日間、つらかったでしょうね。そのつらい気持ちが人間としてのねうちなのよ」
「だまって人の物を取るのはとても悪いことよね。でも、それに気づいて本当のことが言えてえらかったわ。先生に話してすっきりしたでしょう」
T君は、「ハイ」とうなずき、涙の光る顔でニッコリしました。
「自分でお母さんに言えるわね」
「ハイ、言います」
その夜、S子先生の家にT君の母から電話が入りました。親子で商店へ弾を返しにゆき、謝ったあと、改めて買ってきたといいます。
母に言えず、先生に告白したことで、T君がいかにS子先生を信頼しているかがわかり、深く感謝しております、というお礼の電話でした。
T君は三日間苦しみ、今夜は安らかに眠れることでしょう。
『児童生徒に聞かせたい名言1分話』 柴山一郎著 学陽書房