いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「幸せな気分」(読了時間:約7分)

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幸せかどうかを決めるのは、環境ではなく、生きる態度である。

ヒュー・ダウンズ

 

妻と私は、12月に新車を買いました。ちょうどクリスマスに祖母を訪ねるところだったので、飛行機で行くのをやめ、新車の慣らし運転をすることにしました。

 

車に荷物を積み込み、祖母と楽しい休暇を過ごすためわが家を出発しました。

 

祖母の家ではあっと言う間にときが過ぎ、ついついぎりぎりまでゆっくりしてしまったのです。

 

その結果、帰り道を急ぐ羽目になりました。交代でひとりが運転して、ひとりがそのあいだに眠りながら、まっしぐらに家に向かったのです。

 

最後の数時間はどしゃ降りの中を走り、ようやく家にたどり着いたときは夜もかなりふけていました。

 

二人ともくたくたで、熱いシャワーと暖かいベッドが恋しくなっていました。私は、いくら疲れていても荷物だけは今夜中に車から降ろした方がいい、と思いました。

 

でも妻は、ひたすら熱いシャワーを浴びてすぐに眠りたがっていたのです。私たちは、翌朝荷物を降ろすことに決めました。

 

朝の七時に目覚めたときは、二人ともすっかり元気を取り戻し、さて荷物を降ろそうということになりました。

 

ところが、玄関のドアを開けると車がないではありませんか!

 

妻と私は互いに顔を見合わせました。もう一度家の前の道に目をやり、顔を見合わせ、再び道を見て、顔を見合わせました。

 

「どこに車を止めたの?」

 

笑いながら私は答えました。「家の真ん前の道だけど」

 

狐につままれた気分で警察に電話し、念のため、私は盗難車の追跡をしてくれる民間会社にも電話しました。

 

そこの人は、二時間以内に九八パーセントの確率で車を取り返してみせると請け合いました。

 

二時間後に電話を入れ、「車は見つかりましたか?」と聞くと、「まだですが、四時間以内には九四パーセントの確率で見つけてみせます」と言います。

 

さらに二時間が経過し、私は再び電話して聞きました。「車は見つかりましたか?」「まだですが、八時間以内には九〇パーセントの確率で見つけてみせます」

 

ここに至って、私は言いました。「確率が何パーセントだろうと知ったこっちゃない。僕らの車は現に出てこないんだから。見つかったら電話をください」

 

その夜、テレビの画面に車のコマーシャルが映し出されました。わが家の車と同じものです。「この車をあなたの家の前に止めてみたくありませんか?」

 

私はテレビに向かって答えました。「もちろんだよ。昨日までは確かにうちにも一台あったんだから」

 

時間が過ぎていくにつれて、妻は心の平静を失っていきました。車に積んであったものを、つぎつぎと思い出していったからです。

 

結婚式のアルバム、家に代々伝わって来た一族の写真、洋服、カメラとその付属品、私の財布、二人の小切手帳、とざっとあげただけでもこんなにあります。

 

確かに、これがなければ生きていけないといったたぐいの品物ではないかもしれません。でも、このときは何ものにも代えがたい品々に思えたのです。

 

焦りと心配ですっかりまいっていた妻が言いました。

 

「こんなときに、よく冗談なんか言ってられるわね!たくさんの大切な品と買ったばかりの車が消えてしまったっていうのに」

 

私は妻の顔を見て言いました。

 

「ねえ君、僕たちは車を盗まれて取り乱しているのと、車を盗まれても幸せな気分でいるのと、どちらかを選べるんだよ」

 

「どんな態度をとるか、どんな気分でいるかは自分で決めるものなんだ。どっちにしたって、車を盗まれたことに変わりはない。だったら僕は今、幸せな気分の方をとるね」

 

私たちの車は、それから五日後に出てきました。中の荷物はひとつ残らずとられ、車体は修理に三〇〇〇ドルはかかりそうな破損をおっていました。

 

私は車を修理工場に持ち込み、一週間で戻ってくると聞いてホッと胸をなで下ろしました。

 

その一週間がたちました。私はレンタカーを返し、自分の車を引き取りに行きました。やっと戻ってきた車に乗ると、心はうきうきとはずんできます。

 

ところが不幸なことに、この気分は長続きしませんでした。

 

帰り道、ちょうど高速道路を下りようとしたとき、出口付近で前の車に追突してしまったのです。

 

ぶつけた車に被害はありませんでしたが、私たちの車はへこんでしまいました。また新たな三〇〇〇ドルの修理代に、わずらわしい保険の請求です!

 

何とか家までたどり着き、家の前の道に車を止めました。ところが、車の被害を見ようと外に出たとたん、今度は左の前輪がパンクしたのです。

 

私は道に立って車を眺めました。いったい何で事故なんか起こしてしまったんだろう。

 

そこへ妻が帰ってきました。彼女は歩いて来て、車を見、それから私の顔を見ました。

 

そして、怒りに満ちた顔の私に、腕をまわしてこう言ったのです。

 

「ねえ、車がこわれて取り乱しているのと、車はこわれても幸せな気分でいるのとどっちがいい?」

 

「どっちにしたって、車がこわれてしまったことに変わりはないわ。だったら幸せな気分を選びましょうよ!」

 

お腹の底から笑いがこみ上げてきました。妻にはかないません!

 

夜になっても、私たちは幸せな気分でいました。

 

ボブ・ハリス

『こころのチキンスープ2』ダイヤモンド社

(子供用に一部改変)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像