「その調子でがんばりなさい」(読了時間:約4分)
われわれが子どもたちに末永く遺せるものは、二つしかない。ひとつはルーツ、もうひとつは羽ばたく翼である。
ホディング・カーター
私の父はささやかな事業を営んでいて、いつも15人くらいの人を雇っていました。
牛乳を瓶詰めする仕事と、自家製のアイススクリームを売る仕事です。
夏のあいだじゅう、アイスクリームのカウンターの前にはおおぜいの観光客たちが何列にも並び、父のとっておきのレシピによる二七種類もの手作りの味という、日常のちょっとしたぜいたくを待っていたものでした。
父の小さな店は、こんな具合にいつも大にぎわいでしたから、従業員たちはろくに休みもせず、何時間もぶっ続けで猛烈に働かなければなりません。
そのため、新しい従業員がやって来ては、てんてこ舞いの忙しさに音をあげてやめていくのを、この目で見てきました。
ある日、デビーという女性が、夏のあいだ店で働きたいとやって来ました。彼女はこういった仕事は初めてでしたが、精いっぱいがんばるつもりでいました。
仕事の初日、デビーは、あらゆるミスを片っぱしからやってくれました。
売上金額をまちがえてレジスターに打ちこむ、値段をまちがえて客に言う、手渡す品物を取りちがえるわ、ミルクの大瓶を落として割るわ――。
彼女の苦闘を見ているのは拷問に等しく、私にはとても耐えきれませんでした。
そこで私は父にこう言いました。「あの人をなんとかしてあげて。あれじゃかわいそうよ」。
私は、父がその場で彼女をくびにしてくれるものと思っていました。
父は座ったまま何か考えている様子でしたが、やがて立ち上がり、デビーのところへ向かいました。
「デビー」。父は彼女の肩にそっと手を置いて言いました。
「今日、私はずっときみの仕事ぶりを見ていた。きみがミセス・ブッシュにどういう応対をしたかも見たよ」
デビーの顔がみるみるうちに赤く染まり、目には涙があふれはじめました。彼女はおおぜいの女性客の中から、ミセス・ブッシュのことを必死に思い出そうとしています。
お釣りをまちがえて渡した人だろうか、ミルクをこぼしてひっかけてしまった人だろうかと。
父は話を続けました。
「ミセス・ブッシュがうちの店員に対してあんなににこやかだったのを、私はいままで見たことがない。あの人にどう接すればいいか、きみにはちゃんとわかったんだね」
「あの人がうちの店に来るときは、必ずきみに迎えてほしいと思うにちがいない。これからもその調子でがんばりなさい」
こうして父は、一六年にわたってまじめに働く、忠実な従業員を手に入れたのです――そして、生涯の友人も。
『こころのチキンスープ16』ダイヤモンド社
(子供用に一部改変)
Quinn KampschroerによるPixabayからの画像