いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「ああ、ペット愛好家よ......」(読了時間:約8分)

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大学生の頃、私は作家を目指して努力していた。私はすっかり言葉のプロ気取りで、他人の間違った言葉遣いにいちいち眉をひそめた。

 

とりわけ、赤ちゃんに赤ちゃん言葉で話しかける人たちを目のかたきにした。ペット相手にでれでれとしゃべる人たちには嫌悪感すら抱いた。

 

赤ん坊もペットも、そのときは私とは縁がなかったけれど、万が一どちらかをもつことになったとしたら、みんなのお手本となってみせる自信があった。

 

そんなある日、友人が電話してきて、捨てネコを引き取ってもらえないかという。

 

「寒そうだし、怯えているの。お隣の家のガレージの上で見つけたんだけど、誰かに捨てられたみたいなの」

 

ネコは賢い動物だ、と私は考えた。私はいつだって彼らの堂々とした態度と自立心の強さを賞賛してきた。

 

それに、有名な作家はみんなネコを飼っていた。小説を書く私の足元で、ネコが丸くなっている図を私は想像してみた。きっと、創造力も大いに刺激されることだろう。

 

友人がアパートの部屋に近づいたとき、私はネコを見るより先に、その声を聞いた。ネコは、友人が毯の上にかごを置くまで、大きな声で威嚇し続けた。

 

彼女がかごのふたを開けるが早いが、やせっぽちの黒ネコが飛び出してきた。

 

ネコはベッドルームに駆け込み、それから浴室に飛び込んだと思うと、ものすごい勢いで居間に戻って私の膝の上に乗った。

 

「私、急いでいるの」と言って、友人はかごをつかんで一目散に部屋を出ていった。「何かあったら、連絡して!」

 

ネコは、両手で私のお腹を激しくもみ始めていた。まるでボクサーがサンドバッグにパンチを打ち込むように。

 

「あなたは恥ずかしがらないのね」と私はしかめっ面をして言った。

 

ネコはガリガリにやせていたが、その黒い毛はスタンドの光に青く輝いている。ネコは、ちょっと私を見て瞬きをすると、またもとの動作に戻った。

 

「あなたに何か名前をつけてあげなくちゃね」と言ってから、私は言葉を飲んだ。

 

ちょっと待って。私ったら、いつのまにか本気でネコに話しかけている。

 

「ラルフがいいわ」と、自分でも戸惑いながら私は言った。「ラルフなら、素敵な、ちゃんとした名前ですもの」。

 

ブーブーちゃんとか、フワフワちゃんとか、そういう甘ったるいのだけはご免だった。

 

その晩、私はネコと生活するためのルールを決めた。

 

ラルフは、私のベッドには入らず、部屋の絨毯の上で寝ること。簡単な命令語をいくつか覚えて、きちんと言うことを聞くこと。一方、飼い主である私は、彼を賢い動物として扱うこと。

 

ところが絨毯に寝かせたはずのラルフは、翌朝目が覚めると私のベッドの中にいた。これをふた晩繰り返すと、私はこのルールをやめることにした。

 

私は自分自身にいいわけした。だってラルフが喉を鳴らすのを聞くとリラックスできるし、あのふわふわの暖かい体が背中にさわると気持ちいいからと。

 

一週間が終わる頃には、私たちは完璧にわかり合えるようになった気がした。私は、主人が動物に対して話すような言葉遣いでラルフに話しかけることを誓った。

 

ところがある朝、私は彼の尻尾を誤って踏んでしまった。なんて哀れな声!私はラルフをすくい上げ、抱きしめて言った。「まあ、ママったらごめんなちゃい!」

 

私はあたりを見回した。今「ごめんなちゃい」と言ったのは誰?

 

ああ、どうしよう!やってしまった。私は、ついにあの人たちみたいな話し方をしてしまった。

 

それからの数日、私は自分自身と必死に闘った。私はまず、彼のママになるのはやめようと決心した。

 

でも、ほかに自分をどう呼べばいいかわからなかった。「ご主人さま」じゃいくらなんでもやりすぎだし、「キャシー」と名前で呼ぶのも友だちみたいで威厳がないし......。

 

結局、「ママ」が私の役割にいちばんぴったりだった。だから、いやいやながら、私はラルフのママになった......。でも、私はこれ以上の譲歩はしないことを自分に誓った。

 

ある晩、ラルフがカーペットの上に食べ物を吐いてしまった。きれいに掃除をしてから、私は彼を抱き上げて撫でた。「可愛そうなベビー」と私は猫撫で声でささやいた。「気持ちが悪かったんでしゅか」

 

気持ちが悪かったんでしゅか! もはや否定することはできなかった。私はペット好きのしゃべり方を急速に身につけているのだ。

 

以来数週間、私は自分の口から出る言葉に注意を払うようにした。だが、考えられないような「おちっこが出ちゃいましたか」などという言葉が、すらすら口について出るようになったのだ。

 

まるで、悪霊が私にとりついてしまったかのように。さらに悪いことに、ラルフもそうした話し方を喜んでいるように見えた。

 

ある夜、私は冷たく突き放す決心をして、ラルフを膝に載せ、まっすぐに顔を見て言った。「いいですか」。私は、赤ちゃん言葉を使わずに言った。

 

「あなたは、賢い動物なのよ。あなただって、飼い主からそうやって扱われたいでしょう?」

 

ラルフは目を動かさない。私はそれを理解してくれたしるしと受け取り、自分を励ますように続けた。

 

「ですから、私はあなたを高貴なネコにふさわしく、品位と敬意をもって扱いますからね」

 

ラルフは口を開きかけた。その目はじっと私に注がれ、ひょっとしたら今にも何かしゃべり出すのではないかと思えた。

 

とその瞬間、彼は私の顔に向かってあくびをした。私は思わず「お前は、やっぱりおばかちゃんのダメなベビーねえ」と言って笑い、彼をぎゅっと抱き寄せた。

 

すべてのルールをやめにした。もともと、私には権威なんてなかったのだ。ただ、愛情と幼児語だけが残った。あなたも、こんなペット好きの人たちをご存じですか?

 

『こころのチキンスープ11』ダイヤモンド社

(子供用に一部改変)