「母の日」(読了時間:約4分)
友人のダンと俺は、仕事の給料をもらい、週末をビーチで楽しむことした。大変な仕事の後だったので、何よりの休息となるはずだった。
最高にいい天気だった。俺たちは車の音楽のボリュームを上げた。
途中で車を止め、家に電話することにした。
母の日が近かったから、ハイウェーに乗ってビーチに向かう前に、自分たちの母親にひと言メッセージを伝えておこうと思いついたのだ。
電話がつながり、俺はちょうどスーパーマーケットから戻ってきたところだという母と話をした。
母の日には帰れないと伝えると、母はがっかりした声で言った。「楽しんでいらっしゃい。気をつけてね。あなたがいないとみんな寂しがるわ」
車に戻ると、ダンもまた俺と同じ罪悪感に悩まされているのがその顔つきからわかった。
そこで、俺たちは知恵を絞り合った。そう、花を届けてもらえばいいのだ。
俺たちは、町はずれで見つけた花屋の駐車場に車を入れ、花に添えるカードにそれぞれメッセージを書いた。
年老いた愛すべき母親の元に帰らずにビーチで過ごす罪悪感から解放されるため......。
店員は、先に来ていた小さな男の子に頼まれて花束を作っていた。おそらく母の日に贈るに違いない。
俺たちは何となく居心地が悪くなって、さっさと花の代金を支払って出発したかった。
店員が花の代金をレジに打ち込んでいるあいだ、その男の子は俺のほうを振り返り、得意満面に自分の花束をちょっと持ち上げてみせ、言った。
「きっとママは喜んでくれるよ。カーネーション大好きだから」
それから、こうつけ加えた。「ぼく、お庭で摘んだ花も一緒にするんだ。......お墓に持って行く前にね」
店員を見ると、俺たちに背を向けてハンカチを取り出すところだった。
小さな男の子はその花束を大切そうに抱えて、父親の車に乗り込んだ。俺とダンは男の子の車を見送り、顔を見合わせた。
「お客さんたちは、もうお決まりですか?」と、店員が涙で声を詰まらせながら聞いた。
「ああ、決めたよ」とダンが答えた。俺たちはさっきのカードをくずかごに捨て、黙って彼の車に戻った。
ダンが俺のうちまで送ってくれた。俺は車のトランクから荷物を引っぱり出した。
ビーチはお預けになった。
ニキ・セプサス
『こころのチキンスープ10』ダイヤモンド社
(子供用に一部改変)
Free-PhotosによるPixabayからの画像