いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「小さなリース」(読了時間:約9分)

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自分のためにとっておいたものは失われ、誰かに与えたものは永遠に自分のものとなるだろう。

アクセル・マン

 

あと二週間でクリスマスというときに、私は望みもしなかった場所にいました。病院で、手術後の回復を待っていたのです。

 

思い出に残るクリスマスにしたいと思っていたのは確かですが、まさかこんな形で思い出に残るなんて......。

 

私は、左の脇腹に走る痛みを何週間もほうっておき、いよいよひどくなってから病院に行きました。医者が、レントゲン写真を見ながら言いました。

 

「胆石ですね。紐でつないだら、ネックレスになりそうだ。すぐに手術しなくては」

 

「こんな時期に入院なんてぜったい困ります」と言い張ったものの、私もさすがに脇腹の激痛には勝てずに、しぶしぶ手術台に載ったのでした。

 

夫のバスターが、家のことは任せろと言ってくれ、子どもの送り迎えのことは、何人かの友人に電話で頼みました。クリスマスのためのお菓子作りや、ショッピング、飾り付けなど、数え切れないほどの用事はみんな後回しです。

 

手術後、意識がはっきりしてくると、目を見はりました。何と、病室がクリスマスシーズンのお花屋さんさながらになっていたのです。

 

窓辺には、赤いポインセチアやそのほかいろんなお花が所狭しと並べられていました。それから、開封されるのを待ちかまえているお見舞いのカードの束。

 

ベッド脇の台には小さなクリスマスツリーまであって、子どもたちが作ったオーナメントが飾られています。私は、これほどみんなから愛され心配してもらっていることを知って、胸が熱くなりました。

 

窓の外では、降りしきる雪がこの小さな町を冬のワンダーランドに変えつつありました。子どもたちは大喜びしているに違いないわ。

 

「またお花よ!」という声で、私はわれに返りました。看護婦さんが、きれいな花束を抱えてきたのです。彼女は私にカードを手渡し、その花束を窓際のポインセチアのあいだに置きました。

 

「病室がお花で埋めつくされちゃいそうね。そろそろ退院してもらわないと!」と看護婦さんが冗談を言いました。「異議なし!」と私も相づちを打ちました。

 

私がお見舞いのカードを読んでいると、「わあ、そのお花好き」という声がしました。

 

見上げると、カーテンが開いて、隣のベッドの女性が顔を覗かせました。「わあ、そのお花好き」とまた同じことを言います。

 

私のルームメートは、四十を少し過ぎたダウン症の小柄な女性でした。目は茶色で、ショートヘアの巻き毛には白髪が混じっています。

 

彼女は私のお花を、まるで子どものような感嘆のまなざしで眺めました。「私はボニーよ。あなたは?」と私は尋ねました。

 

「ジンジャー」と言うと、彼女は天井を向いて白目をむき出し、唇を噛み合わせました。「先生があたしの足を治してくれるの。明日、しゅじゅつするのよ」

 

私はジンジャーと夕食までおしゃべりしました。彼女は自分のいる施設のことを話してくれ、どうしてもクリスマスパーティーまでには帰りたいと言いました。

 

家族のことはひとことも言わなかったので、私もあえて尋ねませんでした。そして、数分おきに明日の朝手術をするのだと教えてくれ、「先生があたしの足を治してくれるの」を繰り返すのでした。

 

その晩、私のところには何人かの見舞い客がありました。ジンジャーはみんなに陽気に話しかけ、私のお花がきれいだと言いました。

 

翌朝、ジンジャーは手術室に行き、私は看護婦さんに付き添われて、ちょっとだけ廊下を歩いてみました。ふたたび歩けるのは、いい気分です。

 

病室まで戻り、ドアを入ったときです。私は、部屋の両側があまりの対照をなしていることに驚きました。

 

ジンジャーのベッドにはカードもお花もなければ、見舞い客もいませんでした。それにひきかえ、私の側はお花であふれ返り、お見舞いのカードの山がみんなにどれほど大事に思われているかを知らせてくれています。

 

ジンジャーは、誰からもお花やカードをもらっていなかったんだわ。そういえば、誰もお見舞いに来なかったし......。

 

そうだ、と私は決心しました。彼女に何か分けてあげよう。私は窓際に行って、赤いキャンドルを立てた聖なる小枝のリースを手に取りました。でも、これはクリスマスの食卓の真ん中に置いたらぴったりだわ、と思い直し元に戻しました。

 

ポインセチアはどうかしら?玄関に置いたら、あの古い家もぱっと華やぐでしょうね。もちろん、両親からの赤いバラはあげられません。だって、今年のクリスマスには、両親に会えないことがわかっているのですもの。

 

いいわけは、つぎからつぎへと浮かんできました。この花はしおれかかっているからだめ。これをあげてしまったら、あの人が気を悪くするかもしれないし、あれは退院してから家で使える.........。結局、分けてあげられるものは何ひとつありませんでした。

 

それから、私はベッドに戻り、こう決心することで自分の後ろめたい気持ちをまぎらわせました。明日の朝になって売店が開いたら、ジンジャーのためにお花を注文しよう、と。

 

手術が終わり、ジンジャーが戻ってくると、ボランティアの女の子が彼女に、赤いリボンのついた小さなクリスマスのリースを届けにきました。彼女はそれを、ベッド脇の殺風景な白い壁に掛けました。

 

その夜は、私のところにまたお見舞いの人たちが来ました。手術を終えたばかりだというのに、ジンジャーは一人一人にあいさつして、自分のクリスマスリースを嬉しそうに見せました。

 

翌日、朝食がすむと看護婦さんが来て、ジンジャーに退院を告げました。「施設からのお迎えの車がもうすぐ来るわよ」

 

ジンジャーは、クリスマスパーティーまでに帰れることになったのです。私は彼女のために嬉しく思いましたが、病院の売店があと二時間は開かないことに気づくと、自責の念にかられました。

 

もう一度、私は病室のお花を見渡しました。どれかひとつあげられないかしら?

 

看護婦さんが車椅子を運んできました。ジンジャーは身の回りの品をまとめ、クローゼットからコートを取り出しました。

 

「あなたと知り合えてとっても楽しかったわ、ジンジャー」と私は声をかけました。その言葉は本当でした。でも、私は自分のせっかくの思いつきを実行に移せなかったことに心がとがめました。

 

ジンジャーがコートを着、車椅子に乗るのを看護婦さんが手伝いました。それから、壁から小さなリースをはずして、ジンジャーに渡しました。二人がドアの方に行きかけたとき、ジンジャーが言いました。

 

「待って!」車椅子から立ち上がり、足をひきずりながらわたしのベッドまでゆっくりと歩いて来ます。彼女は右手を差し出し、私の膝の上に彼女の小さなリースをそっと置きました。

 

「メリークリスマス」と彼女は言いました。「あなたは、とってもいい人だわ」。それから、私をぎゅっと抱きしめました。「ありがとう」と私はつぶやきました。

 

彼女が車椅子に戻ってドアに向かうあいだ、私は何も言えませんでした。涙に曇る目で、その小さなリースを見つめました。ジンジャーにとってたったひとつの贈り物だったのに.........それを私にくれたのだわ。

 

彼女のベッドの方を見ると、またふたたび空っぽで殺風景になっていました。ジンジャーが乗ったエレベーターのドアが閉まる音が聞こえました。

 

そのとき、私にはわかったのでした。彼女の方が、私よりもずっとずっと多くをもっていたのだと。

(子供用に一部改変)

 

ボニー・シェパード

『こころのチキンスープ8』ダイヤモンド社