いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「きみも誰かにしてやってくれ」(読了時間:約5分)

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われわれは成功を給料の額や車の大きさで判断しがちだが、本当は人類に対してどんな奉仕ができたか、どんな関わりを持てたかで判断すべきなのである。

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア

 

あれは、人里はなれた雪深いキャンプ場での出来事だった。二十年も前の話だというのに、まるで一点の雲もない空のように、いまでも鮮やかに覚えている。

 

私は妻と二歳の娘とともに、エンストを起こしたレンタカーのなかで困り果てていた。とりあえず電気スイッチをまさぐったが、真っ暗なままだ。

 

エンジンをかけようとしても、だめだった。バッテリー切れが原因だとわかったので、娘を妻にまかせ、数マイル先のハイウェーまで歩いて行くことにした。

 

二時間後、私はようやくハイウェーにたどり着いた。トラックを呼びとめて乗せてもらい、最寄りのガソリンスタンドで下ろしてもらった。

 

しかし、そのガソリンスタンドに向かって歩いていくうち、きょうが日曜日だということに気がついて目のまえが暗くなった。やはり、店は休みだった。

 

幸い、近くに公衆電話とボロボロの電話帳があったので、二十マイル離れたとなり町の修理屋に電話した。

 

電話に出てくれたボブという男は、「もう心配ないよ」と言った。「ふだんは日曜は休むんだが、三〇分以内にそっちに行くから」。

 

私はほっとしたものの、いったいどのくらいの料金を払うことになるのかと気が気ではなかった。

 

ボブが乗ってきたぴかぴかのレッカー車で、二人はキャンプ場に戻った。

 

先に車からおりた私は、歩き始めたボブの姿を見て茫然とした。足には金属製のギブスをはめ、松葉杖までついているではないか!

 

彼がキャンピングカーまで歩いていくのを見ながら、私はまた彼への支払いを頭のなかで計算しはじめた。

 

「大丈夫。バッテリーが切れただけだよ。最初はちょっとがたつくけど、あとはスイスイ行けるからね」。

 

ボブはそう言って、バッテリーを充電している間、娘に手品を見せてくれた。娘は、ボブが耳のなかから取り出した二五セント玉をもらって大喜びだった。

 

彼が片づけをしているときに、私はいくら支払えばいいのかと聞いた。

 

「いや、何もいらないよ」意外な答えだった。

 

「でも何か払わなきゃ」「いらないよ」と彼は繰り返した。

 

ベトナム戦争でこの足をなくしたとき、ある人がおれを生死の境から助けてくれた。そのとき彼が、きみも誰かにしてやってくれって言ったんだ」

 

「だから、おれに気がねはいらない。その代わり、誰かが困っているのを見かけたら、その人を助けてやってくれ」

 

さて、話を二十年後に早回しして、舞台は私の働く病院。ここで私は、しばしば医学生の訓練を行っている。シンディという医学生が私のもとで一か月研修した。

 

その日は、ドラッグとアルコールのために身体がぼろぼろになった患者を診察したばかりだった。シンディと私は治療法についてあれこれ検討していたが、ふいに彼女の目に涙が浮かんできたのに気づいた。

 

「こういう話し合いはいやかい?」と私は尋ねた。「そうじゃないんです」と言いつつ、シンディは泣いた。

 

「実は、私の母もこの患者さんと同じ問題を抱えているんです」

 

それから私たちは会議室の片隅で、シンディの母の痛ましい過去について話し合った。涙を浮かべ、シンディは一家を苦しめてきた怒り、苦しみを赤裸々に打ち明けた。

 

私は彼女の母親が治療を受けるようすすめ、経験豊かなカウンセラーと相談できるよう手配した。家族のほかの者たちの強いすすめもあって、シンディの母は治療を受けることを承知した。

 

母親は入院し、数週間後には別人のように生まれ変わって退院した。崩壊寸前だったシンディ一家に、初めて希望の光がさしてきた。

 

「どうやってこのご恩を返したらいいのでしょうか?」シンディが私に聞いた。

 

答はたったひとつだった。「きみも誰かにしてあげなさい」

 

ケネス・G・デービス医学博士

「こころのチキンスープ7」ダイヤモンド社

SofieLayla ThalによるPixabayからの画像