「小さな親切」(読了時間:約5分)
私にはひとり分の力しかありませんが、ひとり分の力にはなれます。私にはすべてのことはできませんが、何かをすることはできます。すべてのことができないからといって、何かをすることまでやめてはいけません。
エドワード・エベレット・ヘール牧師
「ただいま。何してるの、ママ?」と6歳のスージーがたずねました。「
お隣のスミスさんにグラタンを作っているのよ」と母親が答えると、「どうして?」と、まだスージーが聞きました。
「おばちゃんはとっても悲しいの。娘さんが亡くなって胸を痛めているのよ。だからしばらくのあいだ、みんなでできることをしてあげるの」
「どうしてなの、ママ?」
「とっても悲しいときって、ちょっとした用をするのもつらいものなのよ。そんなときには、近所の人がお手伝いをしてあげるの。スミスさんはお隣さんでしょう? 」
「おばちゃんは、もう二度と娘さんとお話することもできなくなっちゃったのね。抱きしめることもできないし、一緒に何かを楽しむこともできなくなっちゃったの。スージー、あなたもどうしたら力になってあげられるか考えてごらん」
スージーは、母親に言われたことを一生懸命考えました。「力になるって、何をしてあげればいいのかしら?」
数分後、スージーはお隣の家のドアをノックしていました。少したつと、「あら、スージーちゃんじゃないの」と、スミス夫人がドアを開けてくれました。
スージーは、その声がいつもあいさつしてくれるときの、あの歌うような調子ではないことに気づきました。
それに目がうるみ、まぶたもはれ、ずっと泣いていたみたいに見えます。「スージーちゃん、どんなご用かしら?」と、夫人がたずねました。
「ママに聞いたんだけど、おばちゃんは娘さんが死んじゃったから、胸がとってもいたいんですって?」
こう言って、スージーは手に握ったものを恥ずかしそうに差し出しました。それは、バンドエイドでした!
「これ、胸のいたいところにつけて」
スミス夫人は、ぐっとこみあげてくるものをこらえました。
そして、ひざまずいてスージーを抱きしめました。「ありがとう。やさしいのね。これできっと治るわ」と、涙まじりの声で言ったのです。
スージーの「小さな親切」を受け取ると夫人は、バンドエイドを家族の写真と一緒に飾りました。目にするたびに少しずつ心がいやされるだろうと思ったのです。
心の傷が治るのには時間がかかり、何かの支えがいることを、スミス夫人はよく知っていました。
夫人にとって、写真入れに入ったバンドエイドは回復のシンボルとなっただけでなく、娘と分かち合った愛と歓びをいつも思い出させてくれるものとなったのでした。
マラディー・マカーティー
『こころのチキンスープ2』ダイヤモンド社
(子供用に一部改変)
Public AffairsによるPixabayからの画像