いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

ちょっといい話~大人用~「メリーゴーランド」(読了時間:約3分)

f:id:kkttiiss1036:20190924131750j:plain

『結婚を控えた娘に』

いよいよ来月、結婚するんやね。

おめでとう。

ジューン・ブライドに憧れていたはずやのに、きみは結局、

お母さんの旅立った8月を、式の日に選びました。

あなたの母親であり、私の妻であった、我々の最愛の女性は、

ある、小さな記事として新聞にも掲載された交通事故により、きみがまだ6歳の時に亡くなりました。

突然すぎて、悲しみ抜いて、途方に暮れて、精神的に参ってしまった私は、死のうとしたんです。

バカなことに、きみを連れてお母さんを追いかけようとした。

その日、最後の思い出にと、家族でよく出かけた遊園地に2人で行きました。

君は嬉しそうに、はしゃぎ回った。

いつも家族で乗ったメリーゴーランドにひとりで乗るきみを、私は精いっぱいの笑顔を作って、

 

だけど力なく手を振って、きみが「お父さーん」と呼ぶ声に必死で答えていました。

とにかくきみは楽しそうで、これが最後の遊園地になることも知らずに、

いや、今日が最後の日であることも知らずに、

元気いっぱいに走っては、乗り物をハシゴしてた。

きみが楽しげであればあるほど心は痛んで、でも、

心が痛めば傷むほど、必死で笑顔を作るようにしました。


やがて急流すべりを乗り終わって、こちらに駆けつけてきたきみは、

満足げな表情で見上げつつ、私と手をつないで、ニコニコしながらこう言いました。


「もういいよ、お父さん。もう、お母さんのところに行こ」

きみは気づいていたんやね。

きみを抱いたまま、ムリヤリ、父親の私がこの世を去ろうとしていたことを、

なぜか知っていたんやね。

この言葉で、私はハッと目が覚めました。

私はこんなことを言った。

「あほ、ミサト!お母さんに怒られるぞ!」

 

「いつか、お母さんがゴハン作って待ってるのに、迎えに来てくれたオマエと駅前の焼鳥屋に寄り道した時みたいに、『そんな勝手なことするんやったら、二人で出て行きなさい!』って、お母さんスネるぞ!スネたらひつこいぞ~!」

こう言うときみは…、お葬式の日以来、お母さんのことでは全く泣かなかったミサトは、セキを切ったように大きな声で泣きだしたね。

24年前のあの日のことを、きみは憶えていないと言います。

でも、きみに子供が、そう、私とお母さんにとっての孫ができて成長したら、あの遊園地にみんなで行こう。

お母さんの分も入場券をちゃんと買って、みんなでメリーゴーランドに乗ろう。

そしてみんなで、思いっきり笑おな。


ミサト、本当におめでとう。


滋賀県・60代男性)

・・・・・・・・・・・・・・


『なみだのラブレター』橋本昌人著 ヨシモトブックス
池田龍三氏「ちょっといい話」より