ちょっといい話~大人用~「三本の指」(読了時間:約4分)
ハローデイ社長、加治敬通氏の心に響く言葉より…
当時はもう会社が潰れるぞという噂(うわさ)が広まっていたものですから、家に借金取りがくるんですよ。夜中にドアを叩いて、「社長を出せ」なんてこともありました。
父親は会社の寮に避難させていましたので私が対応したのですが、長男として震える母や妹を守るのだと男気というか責任感に燃えていました。
ですからほとんど寝ずに何日間も仕事をしていてもそんな精神状態ですから、目が冴(さ)えて眠れないんですよ。
それで体はきついんですけど、夜中にまた会社に行って仕事をする。
とにかく一円でも売り上げを上げたい、上げたいということしか頭にありませんでした。
入社三年目の時に、地元の経営者の集まりに参加した時のことです。
「経営者とは」という議題で、経営者にとって一番大切なものは何かと聞かれたので、私は「危機感です」と答えたんです。
そして会社が潰れるという噂が流れると銀行はお金を貸してくれない、取引先は商品を卸してくれない、従業員も逃げていくから、いざとなれば誰も助けてくれませんよね、
という調子で私は文句ばっかり言い始めたんです。
「頼れるのは自分だけですよね、経営者は」
ときっと偉そうな感じで言っていたんだと思います。
そうしたら先輩経営者が「加治君、君はよう頑張ったな」
と労(ねぎら)いの言葉とともに「よう頑張ったけどな、君は相手が悪い時どういうふうに指を指す」と聞いてきました。
実際に指を指して見せると、「加治君よく見てごらん。人差し指は相手に向いているけど、三本の指は自分を指していないか」と。
「相手に非があった時、確かに相手も悪いかもしれないけど、自分自身も悪いところが三つあるから考えてごらん、と神様が言っているよ」とおっしゃったんです。
そしてその方がじっと私を見据えて「そんな潰れそうな会社でも商品を卸してくれる人や働いてくださる人、そういういい人たちが君の目の前にはたくさんいるのに、目の前の悪いものばかりしかみてないだろう貴様は!」と、
最後はもう怒鳴り声でした。
その日はですね、もう一日中涙が止まりませんでした。
これ何の涙かっていうと、嬉し涙だったんですよ。
当時の私はとにかく一人で頑張っているつもりでした。
俺は長男だから頑張るんだ、寝ずに頑張るんだって。
でも本当は助けてくれる人が目の前にたくさんいたんですよ。
夜中におにぎりをつくって持ってきてくださるパートさんや応援してくれる人がたくさんいた。
でも、当時の私には悪いものばっかりしか見えていなかったんです。
ですから「自分はもう一人ではない」という喜びで、一日中涙が止まりませんでした。
そして、この時に私の心の中に「感謝」という二文字の柱がドンと打ち立てられたんです。
“すべては縁ある人と感動するために”
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池田龍三氏「ちょっといい話」より