ちょっといい話「ピンチはチャンスだ、ありがとう」(読了時間:約4分)
ハローディ(福岡県を中心としたスーパーマーケットチェーン)加治社長のお話です。
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実は平成八年元旦の午前一時にお店が燃えたんですよ。
そのお店というのは二十数年ぶりに出したばかりの新店で、これが大当たりして会社に大きな利益があったんです。
その夜、除夜の鐘を聴きながら営業報告を確認し終えてやっと一息ついたところで、
電話が鳴り響きました。
電話口から上ずった声で、「火事です。後藤寺店が燃えています」と聞こえてきた瞬間、もう真っ青になりました。
すぐに車に飛び乗ったのはいいのですが、頭の中は悪いことばかりが次々と浮かんでくるものですから、寒さではなくて怖さで震えが止まりません。
その時に私の好きな「ピンチはチャンスだ! ありがとう」という清水英雄先生の詩がふっと浮かんできたので、それを必死で唱え始めたんです。
「つらいことがおこると/感謝するんです/これでまた強くなれると/ありがとう/悲しいことがおこると/感謝するんです」
「これで人の悲しみがよくわかると/ありがとう/ピンチになると感謝するんです/これでもっと逞しくなれると/ありがとう」
「つらいことも悲しいこともピンチものり越えて/生きることが人生だと言いきかせるのです……」
車内での四十分間、私はその詩を大声で繰り返しました。
店に着いた時にはゼェゼェいって喉がかれていたので、店に向かって歩く間は「ピンチはチャンスだ/人生はドラマだ」と小声で何度も呟いていました。
すると私を見つけた店長がバッと走り寄ってきて「すいませんでした」と大声で謝ってきました。
その時私の口から出てきたのが、「店長大丈夫や! 改装費一億か二億かかっても、
君ならまた取り戻せるやろ」という言葉だったんですよ。
私は基本的に怖がりだし弱虫だから、あの詩を口にしていなければ、きっと店長をボコボコにしていたと思います。
だからその店長はいまだに言うんですよ。
あの時は半殺しまでだったら我慢しようと覚悟をしていたら、思いもよらない言葉を掛けられて、嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかったと。
この話には後日譚がありまして、そのお店がオープンした時の売り上げというのが千七百万円でした。
これはスーパーの売り上げとしては驚異的な数字なんですよ。ところが火事の一か月後に再オープンした時の売り上げが何と二千三百万円だったんです。
オープン時の売り上げをクリアするっていうことは本来ありえないことなんです。
ですから「ピンチはチャンスだ、ありがとう」というのはここからきているんですよ。
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『致知』2014年5月号「焦点を定めて生きる」より
(子供用に一部改変)
池田龍三氏「ちょっといい話」より