「ママって最高」(親用読み物)読了時間:約3分
子どもに虹を見せているあいだ、仕事は待ってくれますが、虹のほうは、仕事が終わるまで待ってくれません。
パトリシア・クラフォード
私は、とても急いでいた。一番いいスーツを着て、今夜の会議の準備にぬかりはないか考えをめぐらせながら、バタバタとあわただしく食堂を通り抜けようとしていた。
と、四歳の娘ギリアンがお気に入りのダンスを踊っている。ウェストサイド・ストーリーのおなじみ、クール、だ。
私は、とても急いでいた。時間ぎりぎりだった。にもかかわらず、私の内で、ある声がそっとささやいた。『待って!』と。
私は立ち止まり、娘を見た。手を伸ばして娘の手をつかみ、その体をぐるぐる回した。そこへ七歳の娘ケイトリンも加わった。
私たち三人は、野蛮なジルバを踊りながら、食堂から居間になだれ込んだ。笑いながら、くるくる回りながら。
ご近所の人たちは、窓越しにこの馬鹿騒ぎを見たかもしれない。でも、構いやしない。
歌はドラマチックに盛り上がり、そして終わった。私は娘たちのお尻を軽くたたき、二階のバスルームに送った。
二人が階段を上がるあいだ、あえぎあえぎの甲高い笑い声が、壁にはねかえってはずむのを聞きながら、私は仕事に戻り、身をかがめて書類をブリーフケースに押し込んだ。
そのとき、下の娘が姉に言う声が聞こえてきた。
「ねえ、ケイトリン、ママって最高の最高じゃない?」
私はハッとして動きを止めた。すんでのところで、私は大切な瞬間を見逃してしまうところだったのだ。
オフィスの壁をいっぱいに飾る何種類もの賞状や免状が私の頭をよぎった。そのうちのどれをとったって、これにはかないっこないわ!「ママって最高の最高じゃない?」
娘はこれを四歳のときに言ってくれた。娘が一四歳になったとき、同じことをもう一度言って欲しいとは望まない。
でも四十歳になった娘が、私の亡骸にお別れを言うことがあるとしたら、棺の前にひざまずいて、もう一度こう言ってくれないだろうか。「ママって最高の最高じゃない?」
この言葉は、私の履歴書には載らないだろう。けれども、ぜひ私の墓石に刻んでほしいと願う。
『こころのチキンスープ6』ダイヤモンド社