ちょっといい話~大人用~「わが子に書く開封されない手紙」(読了時間:約4分)
大手電機メーカーに勤めて、30年。
部長までに昇進し、家庭を顧みることなく会社勤めの木村さん。
家族のためを思い努力してきたが、世間体を気にする親の生き方に
反発して家庭内暴力をふるう息子さん。
あいだみつをさんの言葉に出会い
息子さんと向き合うことで、自分の生き方を変える決心が
芽生えたというお話です。
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「私はいままでなんのために生きてきたのだろう。すべては家族のためによかれと思ってやってきたつもりだったのに……」
心のなかに広がる疑問、そんなことを考えるとき、その答えを教えてくれるのが相田みつをのことばだった。
一つひとつの言葉のなかに、自分が生きてきた代償として、失ってしまった大事なことがいっぱい詰まっている。
そんな気持ちになることがあった。
通勤電車のなかで、昼休みの公園で、そんな疑問にかられると木村さんはふと相田みつをの本を開いては、そのことばの意味の深さについて考えてみるようになっていた。
会社を終えて美術館に足を運ぶこともしばしばだった。
そして、和らいだ空気のなかにいることで、何か忘れていた気持ちを取り戻したような気がしていた。
そんなある日、美術館内に置かれてある寄せ書きを見た。
そこには、さまざまな問題や出来事に悩む人たちの心の声が書かれてあった。
苦しんでいるのは自分たちだけじゃない。
みんな人に言えない苦しみや悩みを抱えて生きているんだ。
木村さんはカウンセラーが言ったことばの意味がそのときに初めてわかったような気がした。
悩みや苦しみの理由はさまざまではあるけれど、その問題に対して自分としてどう向かい合うのか、自分がゆとりの心を持っていなかったからこそ、自らが招く苦しみにとらわれてきたのではないか。
大事なことは自分が変わるということ、自分が変わらなければ何も変わらないということに気付いたことだ。
「ゆとりがなかったんです。ひとつ屋根の下に住んでいても、一人ひとりが何を考え苦しんでいるのか、父としてわかってやる心のゆとりがなかったんです」
「結局、自分の生き方を息子に押しつけてきたんです。そのことにやっと気がつくことができたんです」
子供へ一首
どのような
道を
どのように
歩くとも
いのちいっぱい
に生きれば
いいぞ
自分が犯したあやまちを息子・陽一に詫びたい。
その気持ちを伝えようとした木村さんは、岐阜市にいる息子に手紙を書き始めた。
しみじみ自分の心境を書き綴って送った。
1通が2通になり、3通になった。
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「ことばに生かされて~相田みつを・人生の応援歌」相田一人監修 今井久喜編著
池田龍三氏「ちょっといい話」より