ちょっといい話「美しさへの三つの条件」(読了時間:約3分)
真山美保さんの作品に「泥かぶら」という一人の顔のみにくい子どもの話がある。
みにくいが故に村の人々から嘲(あざけ)られ、子どもたちから石を投げられたり唾をかけられたりした。
それを口惜(くや)しがっておこる少女の心はますます荒(すさ)み、顔はみにくくなる一方だった。
ところがある日のこと、その村に一人の旅の老人が通りかかり、竹の棒をふりまわして怒り狂う泥かぶらに向かって、次の三つのことを守れば村一番の美人になれると教え、自分はまた旅をつづけていくのであった。
その三つのこととは、
いつもにっこりと笑うこと
自分のみにくさを恥じないこと
人の身になって思うこと
であった。
少女の心は激しく動揺するが、美しくなりたい一心でその日から血のにじむような努力がはじめられる。
決心は何度も中断され、あきらめようとするが、また気をとり直してはじめる泥かぶらの顔からはいつしか憎しみが去り、その心はおだやかになってゆく。
明るく気持ちのよい少女は村の人気者となり、子守にお使いにと重宝がられる者となったのであった。
そんなある日、同年輩の娘が人買いに買われてゆくのを知った泥かぶらは、喜んで身代わりとなり連れられてゆく。
道々たのし気に村の様子を話し、自分がかわいがった村の赤子たちについて語る少女の心はいつか狂暴な人買いの心を動かし始めたのであった。
彼は前非を悔い、置手紙を残して立ち去ってゆく。
その手紙には、
「ありがとう。ほとけのように美しい子よ」
と書かれてあった。
そしてその時泥かぶらは、かつて旅の老人が約束した言葉を理解したのだった。
『美しい人に』渡辺和子著 PHP研究所
池田龍三氏「ちょっといい話」より