ちょっといい話「コロンブスの卵」(読了時間:約3分)
コロンブスが新大陸を発見してスペインに帰ると、朝野を挙げて熱狂して迎えた。
ところが、あまりに評判が高いので、これに反感を持つ者もいた。
ある日、数人の貴族富豪がコロンブスを招いて盛大な宴会を開いたが、
みんな尊大で、傲慢で、コロンブスの評判のいいのがしゃくにさわっていた連中ばかりだったから、
酒が回るとだんだん無礼なことをいい始めた。
「君はアメリカを発見した。もちろん結構なことだが、いわば当たり前のことじゃないか。誰でも西へ西へと行けば、アメリカにぶつかるに決まっているのだ」
「ただ偶然に、君が最初にぶつかったというだけのことじゃないか」
といった具合に嫌味をいう。
それがまた、この招待の目的だったのである。
コロンブスは黙って、この無礼を聞いていた。
そして、静かに立ち上がって、ゆで卵を一つ持って、こういった。
「皆様、どなたでも、この卵を真っ直ぐに立ててくださいますか」
一人ひとり試みたが、卵のことだからころころところがってしまって、うまく立たない。
最後にコロンブスが
「それでは私が立てて見せましょう」
といって、卵の端を少し割って平たくして、そこを下にして卵を立てた。
それを見て、人々は笑った。
「なんだ馬鹿馬鹿しい。それなら誰だってできるじゃないか」
すかさずコロンブスはいい返した。
「そうです。誰もできる容易なことです。しかし、この容易なことは、たった今、どなたもできなかったのです」
「他人のしたことを見れば、誰でも容易なことだと思いますが、誰もやらないときに真っ先にそれをやるということが貴いのです。真似ることは全く易しいんですがね」
この言葉にさすがに皆のものはシュンとしてしまった。
『人生を創る言葉』致知出版 渡部昇一
池田龍三氏「ちょっといい話」より