いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「長続きの秘訣」(親用読み物)読了時間:約14分

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私の友だちは恋しています。彼女は本気で言います。

 

「空ってこんなに青かったかしら」

「ガレージのわきのリラの花はあんなにきれいだったかしら。いままで何度もそばを通っていたのにね」

モーツァルトを聞くと涙が出るのよ」

 

つまり、人生がいま花ざかりってわけです。「ああ、とっても若返った気分!」と、彼女ははしゃぎます。

 

そりゃ、減量スクールなんかより、彼氏がいるほうが効果抜群でしょうよ。彼女は七キロも痩せて、スーパーモデルそこのけ。いまは太ももの形をよくするのに懸命です。

 

彼女が新しい恋人を褒めちぎるのを聞きながら、私はしみじみと自分の相手を見ました。夫のスコットです。

 

スコットはまだ、中年の危機とやらにはさしかかっていませんが、これも時間の問題でしょう。生え際は薄くなり、七キロも太ってしまいました。

 

かつては、マラソンランナーでムキムキの筋肉質だったのに、いまでは勤務先の病院の廊下を走るのが精一杯です。

 

体つきを見れば、働き過ぎている上、甘いものを食べ過ぎているのは一目瞭然です。

 

そんな彼ですが、レストランで向かい合って座れば、私がすぐにも勘定をすませて家のベッドに戻りたくなるくらい魅惑的な目つきだってできるのです。

 

私の女としての魅力は、結婚二五年にもなりますもの、やや落ちてきたのは事実です。

 

いざその気になれば、きちんと美しく装って女っぷりを上げることはできますが、家のなかにいるときは、ブカブカのジャージを着て、夫のグレイのウールソックスをはいています。

 

友だちは、私にたずねます。

 

「どうしたらこの愛を長続きさせられるかしら?」

「さあ、わからないわ」

「じゃ、あなたはどう長続きさせてるの?」

「ううーん。考えておくわ」

 

で、考えられる理由をいろいろあげてみました。共同生活にたいする忠誠心、共通の価値観、身勝手でないこと、肉体的な魅力、意思を通わせる能力......そう、このとおりです。

 

いえいえ、じつはほかにもいろいろあるのです。

 

「共通の遊び心をもつ」

二人でごく自然に、すすんで、その場その時を楽しむのです。

 

きのうも彼はくるくるに巻いた新聞紙に輪ゴムを巻き、それをピーン、ピーンといたずらっぽく私めがけて飛ばしました。これで全面的な輪ゴム戦争に突入してしまいました。

 

先週の土曜日は食料品店で、買い物リストの紙を真ん中から破り、それぞれ半分を手にどっちが早く品物を集めてレジに来られるか競争しました。

 

きちんと料理したディナーだって、それをもとにアート作品のような形を作って遊んでしまいます。二人で皿を洗うのだって、大騒ぎの遊び。とにかくいっしょにいる時間を楽しんで過ごします。

 

「意外性をもりこむ」

ふだんの暮らしのなかに、意外性をもりこむのです。

 

ある日、仕事から帰ってみると、玄関のドアにメモが張ってありました。そのメモからつぎのメモへと、指示のとおりにメモをたよりに行き着いたところは、ウォークイン・クローゼットでした。

 

ドアをあけると、スコットが私の愛用のナベをかかえ、そのなかに入れた私へのプレゼントを目のまえに差し出していたのです。

 

それまでかれこれ一時間、階段に足音らしきものが聞こえるたび、彼はクローゼットに飛び込んで隠れていたわけです。

 

以来、私はよく彼あてのメモを鏡にはりつけたり、ちょっとしたプレゼントを枕の下にしのばせたりします。

 

「理解し合う」

私には彼が男たちとだけ、定期的にバスケットボールをしたがる気持ちがわかります。

 

彼も私がなぜ一年に一度、家からも、電話からも、子どもからも、いえ、彼からも離れて、姉妹たちと数日間、心ゆくまでおしゃべりしたがるかもわかってくれます。

 

「分かち合う」

出費、家庭内の悩み、親としての負担、料理分担だけでなく、いろいろな考えも分かち合います。

 

先月、スコットは学会から帰ってきて、分厚い歴史小説を一冊私の目のまえに差し出して言いました。

 

「これ、帰りの飛行機のなかで読んだんだけど、読んでみてくれないか」

 

私はおどろき、そして感心しました。彼はふだんSFとトム・クランシーのミステリーしか読まない人なんです。それなのに、そんな本を読み、私が読んだら感想を聞きたい、意見を交換したいというのですから。

 

「気がおけない気楽さ」

デザートを注文しても、ウェイトレスに「フォークをもう一つ持ってきて。彼のケーキをちょっともらうから」って言える気のおけなさが大事です。

 

ちょっと味見させてもらえるってわかっている安心感。もし、スコットがケーキをまるまる一つ食べたいのなら、「ごめん、そっちも注文してよ」と言うってわかってますから。

 

それに、分けてくれなくても、私はちっとも気にしません。

 

「許し合う」

パーティーの席などで、私が大声でしゃべりまくって、彼も自分も恥をかいてしまっても、彼はそんな私を許してくれます。

 

私が面白いギャグを思いつくと口にせずにはいられないのをわかっているのです。

 

私だって彼を許しましたよ。二人の貯えを株でスッてしまったと打ち明けてくれたときのことです。

 

私は彼を抱きしめて、けなげにも言ったものです。「いいのよ。たかがお金じゃないの」

 

「相乗作用」

二人の力を合わせることで、それ以上のものを生み出せるということです。たとえば、子どもがそれです。

 

二人で知恵を寄せ合い、問題を見極め、心を一つにありとあらゆる解決策を考えれば、すばらしい答えが出るものです。

 

「気配り」

勤務先の病院から帰りが遅かったからって、とびかかって責めるようなことはしません。彼の目を見れば、大変な一日だったってわかるのですから。

 

先週もそんな暗い目で玄関を入ってきました。子どもたちと遊んでやり、私が温めて出した夕食を食べた彼に、私は聞きました。「どうしたの?」

 

すると、彼は脳溢血を起こした六十歳の女の人の話を始めました。彼はこの患者を何時間も診たのですが、彼女は意識不明のままでした。

 

ふたたび彼女の病室にもどった彼は思わず涙ぐんでしまいました。その夫が、ベッドのそばに立って彼女の手をなでていたのです。

 

スコットはこの女性が退院できる見込みはないと言って、また涙をこぼしました。

 

「四〇年もつれそった夫に、あなたの妻はもう治らないなんて言えるわけないだろ?」

 

私もそれを聞いて、もらい泣きしました。なぜって、医学が救えないことがあるから。こんな世の中でも、四〇年もつれそった結婚があるから。

 

私の夫がまだ感動し、心をくだくことができるから。二五年間も病院勤めをし、死んでいく人をおおぜい見てきたというのに。

 

「信仰」

二人とも、人生がどんなにつらくても、神が私たちを愛していてくださることを信じています。神は私たちを強くしてくださり、力になってくださるのです。

 

先週、スコットは当直だったけれど、そうでなくても長時間の激務に疲れていました。火曜の夜、教会で顔を合わせている親友がたずねてきて、涙ながらに打ち明けました。

 

「夫はがんばってガンと闘ってきたけれど、もういよいよだめなの」

 

私たちはできるかぎり相談にのり、懸命になぐさめました。

 

水曜、私は離婚後の再出発に苦労している友人とお昼をいっしょに食べ、語り、笑い、怒り、これから当てにできそうな神さまの恵みをあれこれ二人で考えました。

 

木曜には、お隣の奥さんが相談にみえました。ご主人のお父さんがアルツハイマー病のせいで人柄が変わってしまい、不安でたまらないという訴えでした。

 

金曜には、幼なじみの大の親友から長距離電話がありました。お父さまが亡くなったという悲しい知らせでした。電話を切って、思いました。

 

「今週の苦しみ、悲しみは、一週間分にしては多すぎる、重すぎる」

 

祈りの言葉をつぶやいた私は、用事を思い出して階段をおりていきました。涙にかすんだ目に、窓の外のグラジオラスが、鮮やかすぎるほどのオレンジ色に燃えているのが映りました。

 

地下室からは、息子が友だちとレゴで宇宙船を作っているのでしょう、ケラケラとうれしそうな笑い声が上がってきました。

 

車をガレージから出しながら、ふと見上げると、遠く紺碧の空に派手な色の熱気球が三つ漂っているのが見えました。

 

しばらくして、ふと左を見ると、ちょうど近所の家から結婚披露パーティーの一行が出てくるところでした。

 

サテンとレースをまとった花嫁は、華やかに歓声をあげる女友だちの輪にブーケを投げ込みました。

 

その夜、そんな出来事の数々を夫に語ってきかせながら、二人でしみじみ思いました。人生はまわっていき、悲しみの片側には喜びもあるのだと。

 

そしてわずかでも、苦しんでいる人々の力になれたことに慰めを見出しました。それだけでも、明日を生きていく力になります。

 

「たがいののみ込み」

最後が、たがいののみ込みです。スコットは毎晩、洗濯物をカゴに入れずに脱ぎちらかします。待ち合わせに時間どおりに来たためしもありません。

 

新聞を読んだあと、五回に三回は決まって床にほったらかします。「最後の一つ」のチョコレートも、だまって食べてしまいます。

 

でも彼のほうも、のみ込んでいます。私には枕を顔にのせて寝るヘンな癖があります。しょっちゅう、キーを置き忘れて家や車から締め出されます。長い旅行に出るまえは癇癪を起こします。

 

そして、私も「最後の一つ」のチョコレートを食べてしまいます。

 

私たちの愛が長続きするのは、なによりも楽だからでしょう。

 

そう、空は前より青くはありません。いつもと同じブルーです。人生にも、たがいにも、何も新しいことの発見はないかもしれません。

 

でも、目にとめたこと、気づいたことから新しく学び豊かになっていきます。

 

音楽は、なつかしいハーモニーを生み出すすばらしいものです。でも、それを聞いてもとくに若返ったりはしません。私たちはあまりに多くのことを体験してきました。

 

その体験をとおして成長し、知恵を身につけ、その負担で体は老いながら、私たちは二人だけのかけがえのない思い出袋を作ってきたのです。

 

愛を長続きさせるのに必要なものを、私たち夫婦が持っていればいいと思います。

 

まだ何も知らない花嫁だった私に、スコットがくれた結婚指輪には、ロバート・ブラウニングの詩の一行が彫られています。

 

「いっしょに年をとっていこう」

 

私たちはその言葉に従って生きてきたのです。

 

『こころのチキンスープ12』ダイヤモンド社

Omar Medina FilmsによるPixabayからの画像