「好きになることから」(読了時間:約7分)
よく知れば知るほど、許せるようになる。深く感じる人は、生きている人すべてのために感じている。
マダム・ド・スタール
私が大学院に通っていたころ、親友のクレイグは、行く先々でエネルギーを与えてくれた。
相手が誰であってもきちんと話を聞いてくれるから、話しているほうは自分をとても重要な人間と感じることができる。彼は誰にでも愛されていた。
ある晴れた秋の日、わたしはクレイグと一緒に図書館で勉強していた。ふと、窓の外に目をやると、ひとりの教授が駐車場を横切って来るのが見えた。
「会いたくないな」とわたし。
「どうして?」クレイグが尋ねた。わたしは前の学期にちょっと気まずいことがあったのだと説明した。
教授が言ったことにかちんと来て、こっちもついきつい言葉を返したのだ。「それにさ、ぼくは嫌われているんだよ」
クレイグは通り過ぎていく教授を見た。
「きみの勘違いかもしれないぜ。嫌っているのはきみのほうかもしれない。それも、不安だからじゃないのかな。彼のほうでも、きみに嫌われていると思っているから、うちとけないんじゃないか」
「誰だって、自分を好きになってくれる相手を好きになるものだよ。こちらが関心を持てば、向こうも関心を持ってくれる。さあ、話をしてこいよ」
わたしはおそるおそる駐車場へ行き、思い切って教授に明るい声で話しかけた。教授はかなりびっくりしたようだったが、わたしたちは話しながら一緒に歩いた。にこにこしながら窓から見ているクレイグの姿が、目に浮かぶようだった。
クレイグの言ったことはとても単純だった。あんまり単純すぎて、どうしてもっと早く気づかなかったのかと思うくらいだ。
若い頃はたいていそうだが、わたしも自分に自信がなくて、人と会うたびに、批判されているような気がした。ところが、じっさいには、相手もこちらに批判されるのではないかと不安なのだ。
あの日から、わたしは相手の目に批判を読みとろうとするのをやめた。誰もが自分の気持ちを知ってもらいたいと思っていることがわかるようになった。
そして、以前なら知り合えなかったはずのおおぜいの人を知った。
たとえば、カナダを横断する列車で、酔っぱらいのようによろよろして、言葉がはっきりしない男性と乗り合わせたことがある。
みんなはその男性を敬遠していたが、話しかけてみると、脳卒中からようやく回復したところだとわかった。
もとはこの鉄道の技師だったそうで、列車にまつわるいろんな話をしてくれた。二百キロ以上もある鋼鉄製のレールを持ち上げたスウェーデン人労働者の話、ペットのウサギと一緒に働いていた車掌の話などだ。
彼はわたしの手を取って、目をじっとのぞきこんだ。「話を聞いてくれてありがとう。たいていの人は、いやがるんですよ」。
でも、楽しませてもらったのはわたしのほうだった。
どの出会いも冒険であり、どの人からも学ぶべきことがあった。金持ちも貧しい人も、有名人もそうでない人も、みんなわたしと同じように夢や疑問をたくさん持っていた。
そして、こちらが耳を傾けさえすれば、それぞれにとてもおもしろい物語があった。
無精髭を生やしたホームレス状態の老人は、大恐慌のころ、池にショットガンの弾丸を打ち込み、浮いてきた魚を拾い集めて家族を養った話をしてくれた。
交通整理の巡査は、闘牛士やオーケストラの指揮者を観察して手の動きを学んだ、と打ち明け話をした。
若い美容師は、「老人ホームでおばあちゃんたちの髪をセットしてあげると、みんなにっこりしてくれるのよ。とっても嬉しいわ」と語った。
誰でも、あなたと同じように誰かが聞いてくれることを願っている。
クレイグが知っていたのはそういうことだった。
まず人を好きになろう。質問するのはそのあとだ。そして、相手に喜びを与えられれば、その喜びは百倍にもなって返ってくるだろう。
ケント・ナーバーン
『こころのチキンスープ9』 ダイヤモンド社
(子供用に一部改変)
Free-PhotosによるPixabayからの画像