いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「家への長い道」(読了時間:約4分)

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経験、それは最も厳しい教師だ。だが、そこから学ぶことは大きい、そう、ほんとうに大きい。

C・S・ルイス

 

わたしが一六歳のとき、ある朝、父が三十キロ近く離れた町まで自動車を運転しないかと言った。運転を習ったばかりだったわたしは、喜んで承諾した。

 

ただし、近くの修理工場まで車を届けること、という条件だった。父を乗せて町へ行ったわたしは、四時に父を迎えに来ると約束し、修理工場へ行って車を預けた。

 

それから数時間、そばの映画館で時間をつぶそうと思った。ところが、映画に夢中になったあまり、時間を忘れてしまった。最後の映画が終わって時計を見ると、なんと六時だった。二時間も遅刻だ!

 

映画を見ていたことがばれたら、さぞ父に叱られるだろう。二度と運転させてもらえないかもしれない。わたしは、修理に時間がかかったことにしようと考えた。

 

待ち合わせ場所に行ってみると、父は辛抱強く待っていた。

 

「遅れてごめんなさい。修理に時間がかかっちゃって」と、わたしは言った。

 

そのときの父の表情を、わたしはいつまでも忘れないだろう。

 

「おまえが父さんに嘘をつくなんて、がっかりしたよ」

 

「どういうこと?嘘なんかついてないよ」

 

父はふたたび、わたしを見た。

 

「お前がなかなか来ないから、修理工場に電話してみたんだよ。向こうでは、おまえが車を取りに来ないと言っていた。そうだろう、車のせいじゃない」

 

わたしは激しい後悔の念に駆られ、じつは映画を見ていたと白状した。父は、悲しそうな表情でじっと聞いていた。

 

「腹立たしいよ。おまえにじゃなく、自分にな。その年になって、お前が父親に嘘をつかずにはいられないのなら、それはわたしが父親として失敗したということだ」

 

「父親に対してさえ、ほんとうのことを言えないような人間にしてしまったんだからな。いったいどこで間違えたのか、家まで歩きながら考えることにする」

 

「でも、父さん。家までは三十キロ近くあるんだよ。もう暗くなってきたし。歩いて帰るなんて無理だよ」

 

謝罪も抗弁も、何を言っても無駄だった。わたしは、生涯で最もつらい教訓を学ぶことになった。父はほこりっぽい道を歩き始めた。

 

わたしは車に飛び乗り、父がなんとか思い直してくれないかとあとを追った。

 

しかしいくら頼んでも、謝っても、父は見向きもせず、黙ってつらそうに考え込みながら歩き続けた。三十キロ近くの道のりをわたしは、時速八キロでじりじりと父のあとをついていった。

 

肉体的にも感情的にもあんなに自分を責めている父を見るほど、苦しいことはなかった。だが同時に、最高に貴重な勉強でもあった。以来、わたしは二度と父に嘘をついたことはない。

 

ジェイソン・ボカーロ

『こころのチキンスープ9』 ダイヤモンド社

(子供用に一部改変)

MaaarkによるPixabayからの画像