「軍服の天使」(読了時間:約3分)
愛が豊かにあるところには、いつも奇跡がある。
ウィラ・キャサー
これは、父が語ってくれたわが家の昔話である。
1949年に、父は戦争から戻ってきた。
ハイウェイでは、ヒッチハイクをして家に帰ろうとする、戦争から帰ってきた兵士たちの姿がいたるところで見かけられた。それが当時のアメリカの日常的な光景となっていたのである。
家族との再会の喜びもつかのま、帰郷した父は悲しみに襲われた。父の母親が腎臓の病に倒れ入院したのだ。医者からは、緊急に輸血をしないと今夜にも命が危ないと言い渡された。
問題は、祖母の血液型が現在でも入手困難なABマイナス型だったことだ。ましてや当時は血液銀行も、血液輸送機もなかった。
家族全員が血液型を調べてもらったが、その血液型の者はおらず、祖母はまさに死の縁にあった。
父は、泣きながら病院を出て、家族や親戚を集めるため家路を急いだ。いよいよ最後の別れの瞬間がやってくるのだ。
ハイウェイを走っていると、車を止めようと手をあげている戦争から帰ってきた兵士がいた。悲しみにうちひしがれていた父は、人に親切にする気にもなれずこの兵士を追い越そうとした。
ところがつぎの瞬間、誰かに引っ張られたような気がして、車を止めその兵士を乗せた。
あまりにも気が動転していたので、父は兵士の名前さえ尋ねなかった。だが、兵士はすぐに父の涙に気づき、その理由を尋ねた。
このまったくの赤の他人に、父は涙ながらに、同じ血液型の人が見つからないため、母親が夜になる前に死んでしまうのだと話した。
車内に沈黙が流れた。
やがて、このどこの誰とも知らない男は何かを握った手を差し出した。それは、首からはずした血液型の札だった。ABマイナス型と書いてある。
兵士は父に、すぐにUターンして病院に戻るよう告げた。
祖母は、それから47年間生きた。けっきょく、家族の誰一人としてあの兵士の名前を知らないままだ。
しかし父は、今でもよく考えるという。あれは本当に兵士だったのだろうか?いや、軍服を着た天使だったのではないか?と。
ジニー・エック・サウェル
『こころのチキンスープ10』ダイヤモンド社
(子供用に一部改変)
Clker-Free-Vector-ImagesによるPixabayからの画像