「百万分の一の命」(読了時間:約3分)
私の友人がメキシコを訪れた時の話です。
夕暮れ時、海岸を歩いていると、遠くの方に誰かが立っているのに気がつきました。
近づいてみると、男が何かを拾っては海に投げ入れているのです。
さらに近づくと、それはヒトデでした。
男は、引き潮で取り残されてしまったヒトデを、一つ一つ拾い上げては海に投げ入れていたのです。どうしてそんなことをしているのだろうと不思議に思った友人は、男に話しかけました。
「やあ、こんばんは。さっきから気になっているんだけど、何をしているか聞いてもいいかね?」
「ヒトデを海に帰してやってるのさ。見ろよ、たくさんのヒトデが波で打ち上げられて、砂浜に残されてしまっているだろう。おれがこうやって海に投げてやらなかったら、このまま干からびて死んじまうよ」
「そりゃあ、もっともな話だが、この海岸だけでも、何千というヒトデが打ち上げられているじゃないか。それを全部拾って海に帰してやるなんて、どう考えても無理な話じゃないかな?」
「それに世界中には、こんな海岸が何百もあるんだよ。君の気持ちはわかるけど、ほんの一握りを助けたって、何にもならないと思うがな」
これを聞いた男は白い歯を見せてニッと笑うと、友人の言葉などおかまいなしに、またヒトデを拾い上げ、海に投げ入れました。
「いま海に帰っていったヒトデは、心から喜んでるさ」
そう言うと、また一つヒトデを拾い上げ、海に向かって投げ入れたのでした。
ジャック・キャンフィールド&マーク・V・ハンセン
『こころのチキンスープ』
(子供用に一部改変)
PeraDetlicによるPixabayからの画像