「町ぐるみの雪かき」(読了時間:約6分)
間違いなく、思慮深く固い意志をもった少数の人々が世界を変えていくことができる。じっさい、世界はそのようにしてしか変わらなかったのだ。
マーガレット・ミード
「子どもは村ぐるみで育てるもの」と言いますが、これはある町の人たちが町ぐるみで一人の子どもの命を救った物語です。
バーバラは、コーヒーをすすりながら、窓の外の降りしきる雪を眺めていました。六十センチも積もった雪のために、街の機能がすっかり麻痺していました。
でも彼女も、彼女が面倒を見ている二人の孫たちもいっこうに気にしていませんでした。暖かい部屋の中で、遊んだり吹雪を眺めたりしながら一日を過ごそうとしていたからです。
ところが、三歳のミッシェルは元気がありません。彼女は、アメリカには何百人といる腎臓移植を待つ子どもたちの一人だったのです。待ち、祈ることが、バーバラの日課になっていました。
でも、今日はいつにも増して、真剣に祈りました。ミッシェルの具合が、いつもより悪かったかったらです。しかし移植を知らせる電話は、鳴りませんでした。
朝の九時に、電話が鳴りました。待ち望んでいた知らせです。遠くにある病院から、ミッシェルに適合する腎臓の提供者が見つかったので、十二時間以内に本人を連れてきてほしいという連絡でした。
バーバラは、喜ぶべきか、悲しむべきか迷いました。ミッシェルにとっての生涯最高の贈り物が待ち受けているというのに、自分たちは1000キロ近く離れた場所にいて、しかも雪に閉じこめられているのです。
「この大雪ではとても無理です!」と、バーバラは電話線の向こうの医療コーディネーターに訴えました。
「空港までは、40キロ近くもあります。おまけに、道路が凍って車があちこちでひっくり返っているんです!」
「あきらめないで」と電話口でその女性がバーバラに言いました。「まだ十二時間あります。きっと方法があるはずです!」
幸運にも電話線はつながっていたので、バーバラは活動を開始しました。頼りになる知人のシャロンに電話しました。彼女は、連絡があればいつでもその病院まで輸送できるよう、ジェット機とパイロットをすでに手配してくれていました。
問題は、この家からどうやってそのジェット機までたどりつくかです。シャロンも必死でした。何としてでも、3歳のミッシェルを送り届けようと心に決めていたのです。
「とにかく荷造りを始めてちょうだい。どういう方法になるかはわからないけれど、必ず行けるようにするから」と彼女は言いました。
シャロンは、ラジオを通して人々に協力を呼びかけました。地元のラジオ局は、ミッシェルを救うためのアイデアを募るメッセージを繰り返し流し続けました。
これを聞きつけたテレサという女性が、自宅の隣にある教会の駐車場ならヘリコプターを停められるかもしれないと知らせてきました。彼女の家は、わずか一・六キロの距離でした。
貴重な時間が刻一刻と過ぎていくなか、バーバラたちは、近所を一軒一軒回って、教会の駐車場の雪かきを手伝ってくれるよう頼みました。
人々は自分の家の雪かきだけですでに疲れ切っていたのに、理由を聞くとためらうことなく駆けつけてくれました。
わずか三十分のうちに五十人のボランティアが集まり、冷たい風にさらされながら作業に取りかかりました。
誰かが、輸送サービス会社に連絡して、ヘリコプターでミッシェルを飛行場まで送り届ける役目を引き受けてもらいました。
その間に、バーバラはジェット機のパイロットに飛行場まで来られるかどうか確かめました。彼も副操縦士もやはり雪で立ち往生していましたが、必ず行くからと約束してくれました。
そして二人とも、それぞれ警官と近所の人に送られ、何とか時間までに飛行場に到着しました。
ついに夕闇が迫る頃になって、地元のラジオ局は、ミッシェルたちを車で教会まで送り届けることができました。
町の人たちが念入りに雪かきした教会の駐車場に着くと、そこには百五十人の人々がシャベルを片手に待ち受けていました。全員で片づけた雪が、うずたかい山となってまわりを囲んでいます。
教会の駐車場にできたヘリポートを照らすため、消防自動車もやってきました。
群衆は三百人になっていました。ミッシェルたちは、拍手し手を振る群衆に見送られながら、雪の舞い降りる真っ暗な空へと飛び立っていきました。
ミッシェルの腎臓移植は成功しました。優秀な医療チームと本人の強い意志、それに、決してあきらめなかった家族の協力があったからだけではありません。
あの日、町の人たちが、ひとつの小さな命のために雪かきすることを選んでくれたからこそ、「不可能」が「可能」になったのです。
スーザン・G・フェイ
『こころのチキンスープ8』ダイヤモンド社
(子供用に一部改変)
Aleksandrs MaksimovsによるPixabayからの画像