「電話交換手」(読了時間:約5分)
自分の生活のためにせっせと働くだけでは、人生は満たされない。見返りを求めることのできない相手に何かをすることなしには。
ルース・スメルツァー
「お父さんはきっと大丈夫よ」と姉は言ってくれたけれど、私は心配でたまらなかった。
だから翌朝になるとさっそく、病院に電話を入れた。姉の声を聞いた途端、父に何かあったことがわかった。
「体じゅうにむくみがでちゃって。お医者様もこれ以上手の打ちようがないそうなの。救急車で専門の設備が整っている病院に行ったわ。お母さんと私もこれから向かうわ」
「私も行った方がいい?」
「まだいいわ。今のところは、落ち着いているから。また連絡するわ」
正午近くになって、私は病院に電話してみた。すると、救急車は途中で引き返したというではないか。
車が引き返したということは、たったひとつの可能性しか考えられなかった。父は、輸送中に亡くなったのだ。
私は、はやる気持ちで病院に電話した。電話に出てきたのは、姉の友人の看護婦だった。
「いったい何が起こったの?」と私はその看護婦に聞いた。彼女は言いよどんだ。病院の規則上、何も言えなかったのだ。ただ、できるだけすぐ姉に連絡をとるようにと言った。
「連絡がつかないのよ!」と私は泣き声になった。「私はこんな遠くにいるのよ。なぜ本当のことを言ってくれないの? 私が聞きたいのは、私が聞きたいのは、......父はだめだったの?」
やっぱりそうだった。救急車で運ばれる途中、まもなく息をひきとったという。私は悲しみにひたる間もなく、どうやって現地まで行くかを決めなくてはいけなかった。
夫は、仕事で出張していたが、何かあれば秘書にホテルの電話番号を尋ねてくれと言い残していた。
言われたとおり電話すると、そのまましばらく待たされ、恐縮しながら電話番号はわからないと言われた。
震える手で、私は電話帳を開けた。夫の出張先の町の番号案内を呼び出した。一回に電話番号を三つまで教えてくれるので、思いつくままに三つのホテルの名前を挙げ、教えられた電話番号を書き取った。
そのうちのひとつに電話をすると、そこでは夫も宿泊していないという。二番目も同じ結果だった。そして、三番目も。
私は愕然として、もう一度番号案内を呼び出した。今度は別のホテルの番号を聞き、そこに電話した。
「いいえ、こちらではご主人様のお名前は宿泊者リストにございません」と交換手が言った。「申し訳ありません。私はただの交換手なので.........」
しかし、電話が切れる前に、私の口から鳴咽がもれた。長い沈黙の後、私は手に受話器を握りしめたまま服の袖で涙を拭いた。
「どうかなさったのですか?」と、交換手が静かな声で聞いた。
「父がついさっき亡くなったんです。父の遺体がある病院は、ここから車で五時間もかかるのに、夫がどこにいるかわからないんです。私一人ですぐ出発すべきか、夫を待った方がいいのか.........」。
私は思わず訴えていた。「一刻も早く母や姉妹のもとに駆けつけたいのに、どうしたらいいかわからないんです!」
また、長い沈黙があった。それから、交換手はゆっくりと、静かに言った。
「お名前とお電話番号をいただけますか? こちらから折り返しお電話しますから、そこで待っていてください」
五分もしないうちに電話があった。
「ご主人が見つかりましたよ。ホテルの支配人に事情をお話しすると、ご主人をつかまえるよう従業員を手配してくれました。ご主人はきっとつかまりますよ」
私は受話器をもったまま、すすり泣いた。「ありがとう、ありがとうございます」
「それから」と彼女は付け加えた。
「もしお一人で運転なさるんでしたら、お友だちについていってもらってください。気をつけて。ひどいショックを受けたあとですもの、.........どうぞ......気をつけていらしてくださいね。お父様のこと、お悔やみ申し上げます」
長距離電話の電話線を伝って、温かい声が私をなぐさめてくれていた。
この見ず知らずの女性は、単なる交換手の仕事をはるかに超え、私を助けてくれたのだ。一人の素晴らしい、心温かな人として.........。
ジョアンナ・スラン
『こころのチキンスープ8』ダイヤモンド社
(子供用に一部改変)
Alexas_FotosによるPixabayからの画像