いい話を、子どもたちに!【いい話を集めたブログ】

いい話をたくさん子どたちに聞かせたいと思い、古今東西からいっぱい集めました。寝る前にスマホで読み聞かせできます。大人の気分転換にもどうぞ。

「ナポレオンと毛皮職人」(読了時間:約5分)

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憤りをもって過去を振り返るな

怖れをもって未来を見るな

しっかりと現在を見つめよ

ジェームズ・サーバー

 

ナポレオンがロシアに遠征したときのことです。果てしない荒野にある小さな村々で、戦闘が続いていました。

 

ある日、思いもかけないことが起こりました。ナポレオンが自分の軍隊からはぐれ、ロシア兵たちに見つかってしまったのです。

 

命からがら路地に入り、毛皮職人の小さな店に逃げ込みました。

 

息を切らせながら、店にいた毛皮職人に向かって叫びました。「お願いだ、助けてくれ!どこかにかくまってくれないか?」

 

「さあ、早く! 部屋のすみの毛皮の中にお隠れください!」と言うと、毛皮職人はナポレオンの上から毛皮をつぎつぎにかぶせました。

 

ナポレオンが隠れるやいなや、兵たちが店の戸を打ち破るようになだれ込んできて、口々に「やつはどこだ? ここに入るのを見たぞ!」と叫びました。

 

毛皮職人は「やめてください」と頼みましたが、兵たちは店中をひっくり返して探しまわりました。鋭い剣を何度も毛皮の山に突き立てます。

 

しかし、ナポレオンを見つけることはできません。やがて、あきらめて店を出て行きました。

 

しばらくして、ナポレオンは傷ひとつ負わずに、毛皮の下から這い出してきました。ちょうどそのとき、彼の手下たちが店のドアを開けて入ってきました。

 

毛皮職人はナポレオンに向かって、おずおずと尋ねました。

 

「こんなことを、あなた様のような方にお尋ねするのは、誠に失礼とは思いますが............。毛皮の下で、まさに殺されるかもしれないと思いながら隠れているのは、どんな気持ちがするものでしょうか?」

 

それを聞いたナポレオンは背すじをピンと伸ばし、怒った様子で毛皮職人に言いました。

 

「なんということを聞くやつだ! わしは、皇帝ナポレオンだぞ! 兵たちよ、この無礼者を外に連れ出して、すぐに処刑せよ。わしが、じきじきに射撃の命令を下す」

 

兵たちは、この哀れな毛皮職人を外につかみ出しました。そして、壁を背に立たせると目隠しをしました。毛皮職人にはもう何も見えません。

 

銃をもって兵たちが一列に並ぶ音、ライフル銃を点検する音、そして自分の上着が風になびく音が聞こえてきます。

 

冷たい風が服をかすめ、頬をつきさしていくのを感じます。両足がわなわなと震えています。

 

ゴホンという咳ばらいがして、ナポレオンのゆっくりとした命令が聞こえました。「構え、狙え!」

 

このささやかな感覚さえも永遠に奪い取られようというまさにその瞬間、たとえようのない感情が込み上げてきました。

 

涙が、頬を伝って落ちていきました。

 

長い静寂のときがすぎました。毛皮職人は自分の方に近づいて来る足音に気づきました。目隠しがはずされたのです。突然のまぶしい日の光に目がくらむほどでした。

 

そこには自分をくい入るように見つめるナポレオンの目がありました。その目はまるで、毛皮職人の心のうちをすべてを見通しているようでした。

 

ナポレオンが穏やかに話しかけました。「さあ、これでわかっただろう」

 

ティーブ・アンドレアス

『こころのチキンスープ2』ダイヤモンド社

(子供用に一部改変)

sialaによるPixabayからの画像