「おばさんの名は」(読了時間:約2分)
看護学校に入って一か月ほどたったころ、授業中に抜き打ちテストがありました。
わたしは勉強が好きでしたから、どの問題にもすらすら答えることができました。
ところが最後の問題だけは、そうはいかなかったのです。
それは「学校の掃除をしている人の名前を書きなさい」というものでした。
これは冗談に決まっています。掃除のおばさんは何度か見かけたことがあります。背が高く髪の黒い五十代のおばさんです。でも、名前なんて知っているはずがありません。
そこで最後の問題は解けないまま答案を出しました。授業の終わりに、誰かが「最後の問題も採点の対象になるのですか」と聞きました。
すると先生はこう言われたのです。
「もちろんです。看護婦というのは大勢の人々に接する職業です。どの人も大事です。気にかけ、心づかいをするに値しない人など一人もいません。
ただにっこりして、『おはよう』と言うだけでもいいのです」
わたしはこの教えを生涯忘れません。ちなみに、おばさんの名はドロシーでした。
ジョアン・ジョーンズ
「こころのチキンスープ5」ダイヤモンド社
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